実録 水漏れマンション殺人事件

ある朝、突然、天井から水が降って来た。原因はなんと殺人事件! 水漏れ、殺人、精神障害者、裁判‥‥これは、てんこ盛りの〈マンション被害〉と闘った〈事故物件の大家さん〉=私による本当にあった話です。

⑤明けて翌日、水漏れは止まらず

f:id:RyokoHisakawa:20170515134055p:plain  明けて事件翌日。前夜、私はけっこうしっかりと寝た。身体的な疲れもあったけれど、「水漏れなんてそうそう続かないさ」という気楽な思いもあった。だから、早朝に目を覚した時には、じきに『めでたい苗字』から「止まりました」の電話がかかってくるものと思っていた。

 けれども、その朝は妙に静かに時間だけが過ぎていった。8時半、待ち切れなくなった私は、管理人さんが出勤する時間にあわせてマンションに向かった。今朝はマンション全体を取り巻く黄色いテープは外されていたものの、外から見てもまだ上階の部屋はテープで囲われていて、すでに大勢の警察官が活動していた。

 ロビーに入ると、『めでたい苗字』の姿あり。

「早朝からお疲れ様です」

 声をかけながら近づくと、彼は申し訳なさそうに言った。

「残念ながら、落水は止まっていません」

 私は、小さくうなだれた。

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 そんな私に彼が尋ねた。 「大家さん、保険、どうなっていますか?」

 意外な質問だった。というのも、マンション住民からなる管理組合の会合では、しばしば階下への水漏れ報告があって、その都度、マンション全体の共有保険で賄ってきたからだ。私は、今回もその方法でいくものとばかり思っていた。

「実は……」

 昨日から私は、『めでたい苗字』の「実は……」を何度も聞いてきた。思えばその度に、「実は……」の先には悪い話が待っていた。私は身構えた。

「実は、僕も共有保険で処理するつもりだったんです。それで小社の法務部に報告したところ、今回の事件の場合、〈不可抗力〉ではなく〈故意の破損〉。つまり、人間が意図して壊したという概念が当てはまるので、保険金が出そうもないと……」

 筋の通った話ではある。だが、感心している場合ではない。

「そうすると、どうなっちゃうんでしょう?」

「問題を起こしたのは上階の部屋ですから、通常は上階の保険で処理します」

 良かった!

「だけど、実は……」

 なんだよ、また「実は……」かよ。

「上階の方、保険に入ってないみたいなんです」

 ぎゃー!

「なにせ、おひとりは亡くなって、もうおひと方は殺人容疑で警察ですからね。問い合わせようがないんですが、登記上、部屋の持ち主は亡くなられたおかあさんです。ところで、一般的には、みなさん、住宅ローンを組んでマンションを買いますよね。その際、金融機関からほぼ強制的に保険に加入させられます」

 話を聞きながら私は、マンション購入時の遠い記憶を辿っていた。言われてみれば、私もそんな経緯で保険に入った憶えがある。

「ですが、亡くなったおかあさんは、あの部屋を現金で買われたんですよ」

 現金で全額? 上階は資産家だったのだろうか。

「珍しいケースです。現在、上階の親族を捜索中で、連絡が付き次第、保険について確認するつもりです。しかし、加入していない場合、大家さんの保険だけが頼りです」

 

 

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